新国立競技場完成視察
アクセシビリティの世界基準を満たした日本初のスタジアム
みなさん、新国立競技場に行ってください!
2019年12月23日 バリアフリー
2019年12月21日に新国立競技場の視察に行ってきました。
DPIでは2014年5月にザハ・ハディド案の基本設計が発表された時から、アクセシビリティ(バリアフリー)の世界基準を満たしたスタジアム建設を求め、働きかけを続けてきました。
2016年1月に大成建設・梓設計・隈研吾チーム案に決定した後は、ユニバーサルデザインワークショップ(UD/WS)の構成員として、毎回3~4時間の会議を、合計21回は参加し、積極的に意見提案を行ってきました。多様な障害者が基本設計の段階から、設計担当者と図面を見ながら議論をし、創り上げた我が国初のスタジアムです。
完成後初めての視察ということで、期待と不安でドキドキしながら見てきました。
●車いす用席(500席、サイトライン確保、同伴者は横に席)
日本のスタジアムが世界に劣っていた最大のポイントは、1.車いす用席が少ないこと、2.前の人が立ち上がっても視界が遮られないようにするサイトラインの確保ができていないこと、の2点でした。
2013年にアメリカに行った時、3つの野球場をまわったのですが、車いす用席が数えられないくらいあること、すべての席がサイトラインを確保していることに衝撃を受けました。帰国して調べると、アメリカには「ADA Standards」という基準があり、車いす用席は総席数の0.5%以上設置すること、サイトラインを確保すること、同伴者は横に席を設けることが明記されていました。
バリアフリー法はどうなっているのかと調べてみると、基準がまったくなかったのです。そのため、たとえば東京ドームは46,000席ありますが、車いす用席は12席、サイトラインは確保されず、同伴者は車いすの後ろに座って一緒に観戦を楽しむことができない、という作りです。東京ドームだけが特別悪いわけではなく、基準がないために日本のほとんどのスタジアムは同じ様な状況でした。
そこで、なんとかこの2点をクリアしようと働きかけた結果、新国立競技場は車いす用500席(総席数6万席)が実現できました。オリンピック時は0.75%以上、パラリンピック時は1%以上、平常時は0.5%以上という基準があるので、パラリンピックの時はさらに増設される予定です。
サイトラインも十分確保しています。子どもや小柄な人でも視界が確保されるようにしてあり、前の手すりも出来る限り低くし、さらに斜めの配置にして、最大限視界を確保するように工夫してあります。実際に見てみて、目の高さの低い人でも十分確保できているのではないかと思いました。
介助者は横に配置されています。固定された椅子で、本当はパイプ椅子のほうが車いすに合わせてレイアウトを変えられるので融通がきいて良いのですが、これは固定椅子にすべしという基準があるためです(パイプ椅子だと興奮した観客が投げる可能性あり、国際的な基準では禁止されています)。
他には、すべての席ではないのですが、数席に1ヶ所電源もあり、呼吸器や電動車いすの電源が取れるようになっています。
マイナスポイントは、車いす席からは、オーロラビジョンがちゃんと見えないということでした。上の階のひさしと電光掲示板が視界を遮ってしまっているのです。これは設計のときに見落としてしまっていたポイントでした。
●トイレ(多様なトイレを豊富に設置)
トイレも工夫しています。色んなタイプのトイレを作りました。車いすで使えるトイレは車いす用席15席に対して1つ以上の比率で設置しています。ベビーベットは一般の男女トイレにそれぞれ設置するなど、多機能トイレに利用が集中しないように機能分散をしています。さらに、多機能トイレも、ベッドがあるタイプとないタイプ、LGBTQの方も利用しやすいように性別を限定しない独立したトイレもあり、ここも車いすが入れる広さを確保しています。さらに、一般の男女それぞれのトイレにも手動車いす程度は利用できる簡易多機能トイレを設置しています。
マイナスポイントは、競技場の外の多機能トイレです。車いすで使えるトイレは2~3ヶ所しかなく、ここは健常者と思われる人たちも並んで混雑しておりました。
●移動ルート
障害者と健常者と場をわけないインクルーシブな移動ルートができています。スタジアムの入場ゲートは、車いすは一般の横にゲートがありましたが、それ以外はほぼ同じルートです。
●その他
精神障害の方等が人混みで疲れてしまったときに休めるカームダウン・クールダウンの部屋、補助犬トイレ、ベビーケアルームには車いすの人も子どものおむつを交換できる台が設置されています。これは子育てをした車いすユーザーの提案によるものです。
●感想
視察で一番印象的だったことは、車いすの人がめちゃめちゃ多かったということです。まるで、アメリカのスタジアムにいるようでした。車いす席が増えれば、こんなに多くの車いすユーザーが来るんです。まさにインクルーシブな社会を体験する素晴らしい光景でした。
細かい課題はいくつかありますが、アクセシビリティの世界基準を満たした日本初のスタジアムでした。障害者も健常者も一緒にすばらしい感動を体験できるスタジアムの完成です。
ご尽力いただいたJSC、梓設計、大成建設、隈研吾さん、関係者のみなさんに改めて感謝申し上げます。ぜひ、みなさん新国立競技場に行ってください。世界基準を体験し、インクルーシブな社会を感じてほしいなと思います。
佐藤 聡(事務局長)
こんな記事も読まれています
現在位置:ホーム > 新着情報 > 新国立競技場完成視察アクセシビリティの世界基準を満たした日本初のスタジアムみなさん、新国立競技場に行ってください!