安心して安全運転できる自動車、道路交通環境について


「運転免許の聴力基準に関する意見書」に関する参考資料
安心して安全運転できる自動車、道路交通環境について

 2003年6月、「障害者欠格条項をなくす会」主催の集会において、瀬谷和彦さん(聴覚障害者、大学助手)からレポートを受けました。 その中で、「近づく救急車の情報など目でみてわかるシステム」について、瀬谷さんの提案は、次のようなものです。
 緊急自動車の接近を視覚的に知らせる装置があれば、聴覚障害者に注意を促すことができ、安心です。現在、救急車などのサイレン音を感知してそれを知らせる方法が研究されています。しかし、個人的にはワイヤレスマイクに使われているような特定小電力電波の特定周波数を電波法で制定し、サイレンを鳴らすと同時に発信される特定電波を受信機が受信した時に点滅で知らせる方法が確実ではないかと考えています。有効距離は100mあれば十分すぎると思います。また、緊急自動車の種類によって周波数を変えれば、救急車、パトカー、消防自動車、その他のように区別することもでき、より情報量を増やすことができます。【瀬谷さんのレポートより引用】
 緊急自動車の接近を光サインや振動に変えて知らせる技術は、屋内携帯信号機では、2004年春商品化を目標に製品開発されています。
 瀬谷さんの提案を含めて、いくつかの技術的可能性があり、その一部は、すでに何度も実験・製品化の試行・提案がされています。近年普及の著しいカーナビシステムの応用など、新しい技術的可能性についての意見もあります。下記は、聴覚障害者が運転する時にも役立っている、汎用技術による機器やシステムの一例です。ご参考に列記します。

★運転過程記録、ドライバー教育
・ドライブレコーダー
 フライトレコーダーの自動車版。運転過程の記録、ひいては事故の検証、ドライバー教育(安全教育・事故予防)などに広く活用されている。各社から商品が出ており、車載カメラ付のものも開発された。普及・小型化・低価格化が進行中。

★危機対策、SOS発信、災害情報取得等
・ヘルプネット(株式会社 日本緊急通報サービス)
 多数の民間企業が集合して設立したサービス会社。車にヘルプネット(機器)を搭載し、事故、故障、急病時に、ボタン一発でGPS通信により24時間態勢のオペレーションセンターに通報ができ、救急車などがかけつけるシステム。GPS対応携帯電話によるサービスもあり、文字(メール)で通信できる。
・FM文字多重放送(愛称「見えるラジオ」など)
 音声で使われている電波のすき間にデジタルデータを送信し、ニュースや天気予報、緊急情報(地震や津波の情報など)を文字情報で無料提供するサービス。テレビの文字放送と同じようなもの。対応する携帯型のラジオで受信する方法が多かったが、近年は、カーナビへの搭載が増えている。「FM文字多重放送対応」とあれば、カーナビで見ることができる。
・マイレスキュー(株式会社レスキューナウ・ドット・ネット)
 個人の危機管理に役立つ情報を提供するサービス。"○○線快速電車が事故で運転停止""○○道路○○車線が積雪で通行止め"といった、災害や事故の速報を、登録者の携帯に知らせるもので、ヘルプネットと同様に、全国サービス。新サービスとして「聴覚に障害がある方むけ緊急リレーメッセージ」を開始している。これは、音声による意思疎通が困難な人が緊急連絡をとりたい場合に、レスキューナウのオペレーションセンターが代理連絡を行なうもので、携帯電話の電子メールを利用して発信されたSOSメッセージ(文字情報)を 、レスキューナウのオペレーターが、あらかじめ登録された連絡先へ、本人に代わって電話によって連絡する。聴覚言語障害当事者の強い要望に応えて無償で提供することになった。

★車の周囲の安全目視確認
・車載カメラ
 前方や後方の死角部分を、車載CCDカメラで車内のカーナビディスプレイ等に映し出す。様々に商品化されており、車種によっては標準搭載している。
・ミラー(補助ミラー・ダブルミラーなど)
 多様な工夫された製品が出ており、運転席後方や周辺の目視に役立っている。

★自動車車内の静粛性の向上
 聴覚障害があるドライバーにとっては、一般に、走行騒音による疲労の軽減につながり、車内での会話の一助ともなる。
 企業や民間団体、いくつかの省庁においても、自動車と道路交通環境の向上をめざして、さまざまな調査研究・技術開発が行われており、高齢のドライバー、障害があるドライバーを含めて「誰でも快適・安全に運転できるように」という指向性がある。
 一例として、先進安全自動車(ASV)研究開発プロジェクトや、ドライバーのエラーによる交通事故を未然に防ぐための「カーナビゲーション装置などの車両から呈示する視聴覚情報の最適化に関する研究」(独立行政法人 交通安全環境研究所)など。
さまざまな装備や工夫を紹介しましたが、これらの装備が完備されれば、私たち聴覚障害者は補聴器をつけなくても健聴者と何ら変わりなく安心して安全に運転することができます。聴覚障害者が安心して安全運転できるようにするためにまずやらなくてはならないこと。それは視覚情報量を多くすることです。そのためにも政府は一刻でも早く、補助ミラーやCCDカメラ取り付けの助成を実現し、死角を最大限減らしていくべきではないでしょうか。そして緊急自動車対策も急ぐべき課題だと思います。政府は、聴覚障害者に役立つこうした設備があることをよく理解し、聴覚障害者の自動車免許条件や運転条件に制約を設けるようなマイナス思考ではなく、プラス思考で聴覚障害者に優しい福祉自動車(※)を一刻でも早く実現すべきではないでしょうか。【瀬谷さんのレポートより引用】
※全体として、プラス思考で取り組みを!という主旨の訴えである。内容も聴覚障害者専用の自動車という意味ではなく、旧来の福祉の発想とも異なる。新しい言葉として最近は「ユニバーサル・カー」などが使われ始めている。


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