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名古屋城の木造新天守へのエレベーター不設置について、人権救済を申し立てました

2019年01月10日 バリアフリー

DPI日本会議事務局次長、愛知障害フォーラム事務局長の辻です。

障害者団体などでつくる「名古屋城木造天守にエレベーター設置を実現する実行委員会」のメンバーが、名古屋城の木造新天守にエレベーターの設置を求めて1月7日(月)、不設置とする名古屋市の方針は人権侵害にあたるとして、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てました。

現在も署名活動は継続しています。(1月9日現在、ネット、直筆あわせて4534筆)皆さまのご協力をお願いいたします。

▽【目標1万筆】名古屋城木造復元、エレベーター不設置の撤回を求めるネット署名、ご協力のお願い(DPIホームページ)

各種マスコミにも取り上げられました。


人権救済申立書

2019年1月7日

日本弁護士連合会人権擁護委員会御中

申立人代理人弁護士 高森 裕司
同 濱嶌 将周
同 櫻井 義也

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

第1 申立の趣旨

相手方に対し,名古屋城木造天守閣にエレベーターを設置しないとする方針を撤回せよ
との警告を求める。

第2 申立の理由

1 申立事件の概要

(1)名古屋市中区本丸1番所在の特別史跡名古屋城跡は,相手方が管理する17世紀はじめに築城された尾張徳川家の居城跡である。戦災により焼失した天守閣は,1959年に鉄筋鉄骨コンクリート造にて再建されており,現天守閣には、外付けエレベーターが1基(定員11人)、内部エレベーターが2基(定員23人)設置されている。

(2)相手方は,現天守閣の設備老朽化や耐震性確保などを理由に名古屋城天守閣整備事業を行うことを決め,現在,これを史実を忠実に再現した木造とするとし,木造天守閣復元は2020年6月着工,2022年12月完成を予定し,総事業費は最大505億円としている。
そして,2018年5月30日,相手方は,「木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針」(資料1)を発表して名古屋城天守閣にエレベーターを設置しない方針を正式に示し,現在もこれを維持している(資料2~9)。

2 車いすを利用する身体障害者(自立歩行が困難な者すべてを含む。以下同じ。)に対する権利侵害天守閣にエレベーターが設置されなかった場合,当然,車いすを利用する身体障害者は2階以上に昇ることはできない。
上記相手方のエレベーターを設置しない方針のまま事業が実施されれば,以下のとおり,車いす利用等を行う身体障害者の権利を侵害する。

(1)障害者権利条約違反
障害者権利条約は,2008年に発効し,2014年批准により我が国においても効力を生ずることとなった。

ア 権利条約第5条は,「全ての者が,法律の前に又は法律に基づいて平等であり,並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める」(第1項),「障害に基づくあらゆる差別を禁止する」(第2項)としている。
エレベーターのない天守閣を建築することは,エレベーターなくして階層の昇降ができない障害者の利用を拒否しているのと同義であり,平等の保護及び利益を受ける権利を侵害し,障害に基づく差別にあたることが明らかである。

イ 権利条約第8条第1項は,締約国が,障害に関する社会全体の意識を向上させ並びに障害者の権利及び尊厳に対する尊重を育成することや,定型化された観念,偏見及び有害な慣行と戦うことを締約国に約束させている。
エレベーターを設置しないという方針は,それ自体が「障害者なのだからできないことがあっても仕方ない」という障害者の権利制限が許容されるという誤った考えを助長させるものであり,権利条約第8条第1項が求める意識向上等の育成どころか,そのまったく逆の行為を行っているものである。

ウ 権利条約第9条第1項は,締約国に対して,建物等の公衆に解放され又は提供される施設を利用する機会を有することを確保するための適当な措置を取ることを求めている。相手方の方針及びその実施は,天守閣という公衆に解放され提供される建物を利用する機会を確保することをしていない。

工 以上のとおり,相手方の方針及びその実施は,障害者権利条約の上記各条項に違反する。

(2)障害者差別解消法違反

ア 障害者権利条約の採択を受け,我が国においてその批准に向けた法整備が進められていった。2011年施行の改正障害者基本法は,全ての国民が,障害の有無にかかわらず,等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり,全ての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため,障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的としている(第1条)。
そして,全て障害者は,社会を構成する一員として社会,経済,文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること(第3条第1項),何人も,障害者に対して,障害を理由として,差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないこと(第4条第1項)などが定められている。

イ これを受けて2016年に施行された障害者差別解消法は,障害を理由とする差別の解消を推進して共生社会を実現することを目的としている(第1条)。そして,同法第7条第1項は,行政機関等が,その事務又は事業を行うにあたり不当な差別的取扱をすることにより障害者の権利利益を侵害することを禁じている。天守閣にエレベーターが設置されなかった場合,車いすを利用する身体障害者は2階以上に昇ることはできない。したがって,そのような建築物
を建てることは,障害者によるその利用を拒否していることに他ならず,
相手方の方針の実施が障害者の権利利益を侵害する差別にあたることは明らかである。
したがって,相手方の方針及びその実施は,障害者差別解消法第7条第1項に違反する。

3 名古屋市が示す代替案について

(1)相手方は,上記「木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針」において,エレベーターを設置しない一方,「新技術の開発などを通してバリアフリーに最善の努力をする」としたうえ,仮想現実・分身ロボット,フォークリフト・高所作業車,人工筋肉などの12の代替案を示している(資料3)。しかし,これらいずれかの案が実際に実現する保証は何らない。しかも,相手方によれば,これら代替案は公募形式の技術コンペによって実現するとのことであるが,その募集期間は2019年の1年間しかなく(資料9),その間に,これまで実現できなかった新技術による他の昇降方法が突然実現するとは到底考えられない。
結局のところ,現状決まっているのは「エレベーターがなく車いすを利用する身体障害者が利用できない施設を作ること」だけであり,そのような施設を作ることが差別にあたることは明らかである。

(2)上記方針において,相手方は,現天守閣に設置されているエレベーターが5階までしかなく,展望室のある7階へは階段でなければ行くことができないことから,「車いすの方は展望ができない状況である」として,あたかも新天守閣のほうがバリアフリーにおいて優れているかのような演出をしている。
しかし,天守閣の利用は眺望を楽しむという点だけなく,その内覧を楽しむことも当然に含まれている。車いすを利用する身体障害者は,これまで5階までは利用できていたにもかかわらず,エレベーターのない新天守閣が作られれば1階以外の利用はできないこととなり,新天守閣が車いすを利用する身体障害者の権利をより制限することとなるのは明らかである。現状よりもさらに後退する施設の再建が許されていいはずがない。

第3 結語

名古屋城は,名古屋市のシンポルとしてこれまで市県民に愛され,市県民や観光客などがその天守閣を利用して楽しんできた施設である。
これがエレベーターのない形で再建されれば,車いすを利用する多数の身体障害者はその施設を利用する権利を奪われることになる。
障害者権利条約は,いわゆる社会モデルの考えに立脚し,「障害が発展する概念であることを認め,また,障害者が,機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用であって,これらの者が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加すること妨げる得るものによって生ずることを認め」としている(前文(e))。

相手方の事業計画及びその実施は,上記のとおり障害者がその施設を利用するという権利を奪うのみならず,エレベーターを設置しないという方針を決定するという態度自体が,「障害者なのだからできないことがあっても仕方ない」という誤った考えを助長し,障害者はいつまでも十分な権利を享受できない障害者たる地位に置かれ続けることとなり,権利条約及びこれに基づく国内各法が目指す社会的障壁の除去による共生社会の実現は遠のいていくことになりかねない。

障害者権利条約は世界177か国が批准する,障害者の権利を考えるうえでの国際的スタンダードであり,我が国においても,不十分ながらもこれに適合すべく国内法が整備されてきた。本方針及びその実施によりエレベーターのない天守閣を建築することは,共生社会の実現を目指す世界の潮流に反した有害なシンボルを建てるものでしかない。

よって,申立の趣旨記載の警告をしていただきたく,本申立に及んだ。

以 上


 

【別紙】
当事者目録
[申立人]
〒466-0037
申立人
名古屋市昭和区恵方町2-15AJU車いすセンター内
電話 052-851-5240
FAX 052-851-5241
名古屋城木造天守にエレベーター設置を実現する実行委員会
共同代表 近藤 佑次
共同代表 齋藤 縣三

〒468-0011
名古屋市天白区平針2-808ガーデンハイツ平針
弁護士法人名古屋南部法律事務所平針事務所(送達場所)
電話 052-804-1251
FAX 052-804-1265
申立人代理人 弁護士 高森 裕司

〒458-0004
名古屋市緑区乗鞍2-601-13ヴェルデ徳重1階
緑オリーブ法律事務所
電話 052-838-8795
FAX 052-838-8796
申立人代理人 弁護士 濱嶌 将周
〒460-0002
名古屋市中区丸の内3-19-1ライオンビル6階
愛知さくら法律事務所
電話 052-951-7326
FAX 052-951-7278
申立人代理人 弁護士 櫻井 義也
[相手方]
〒460-8508
名古屋市中区三の丸3-1-1
電話052-961-1111(代表)
相手方 名古屋市
代表者市長 河村 たかし


▽人権救済申立書はこちらからダウンロードできます(PDF、墨字のみ)

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